
AIによる「人の創造力の拡張」 博報堂DYグループのAI
AIの社会実装が急速に広がる中、博報堂DYグループは、人間中心のAIアプローチ「Human-Centered AI(HCAI)」をフィロソフィーに掲げ、共創型AIの技術開発・実用化を推進してきた。2025年11月にはAI活用を支援する専門組織「HCAI Professionals」を新設するなど、人間の創造性の拡張と新たな価値創造に向けた取り組みを本格化させている。
本稿では、HCAIが描くAI戦略と、その実践に向けた具体的なアプローチを紹介する。
グループの力を結集してAI活用を支援する「HCAI Professionals」の設立
HCAIでは、AIを人間の代替として自動化や効率化だけに使うのではなく、人間の創造性を高めて新たな価値を生むパートナーと位置付けている。博報堂DYグループ では、HCAI(人間中心のAI)の理念について、「AIを用いて生産性を高め、価値を作る」というアプローチを示す内側のループに、「AIを軸に創造のプロセスそのものをアップデートし、新しい共創を生むことで市場を再定義する」を外側のループに据えた、二重のループで表現している。人間の創造性を進化・拡張することで企業の事業成長を後押しし、ひいては生活者に貢献するAIの実現を目指すものだ。
このHCAIの理念を推進するために、「HCAI Institute」「HCAI Initiative」という2つの組織に加え、両組織における研究開発・実践の成果を現場に実装するデリバリー組織である「HCAI Professionals」を2025年11月に新設した。博報堂DYグループの多様なAIソリューションや独自に蓄積してきた生活者データや知見などを組み合わせ、高度な専門性を発揮する人材を集結させた組織である。

HCAI Professionalsでは、生活者知見を実装したAIによるマーケティング高度化支援、クリエイターとAIの融合によるクリエイティブ制作、AIエージェント開発、AI導入コンサルティングなど、多様なソリューションをワンストップで提供する。顧客企業のマーケティング支援からAIの導入・活用支援まで広く伴走するとともに、マーケティング領域にとどまらず、あらゆる事業領域における業務変革や新規事業開発もサポートすることで、顧客企業の事業成長に貢献することを目標としている。
AIによる「同質化」の問題を回避するための「AI-POWERED CREATIVITY」
同質化を回避するために求められる「創造性」へのシフト
AIやデータ活用が普及した先には、どの企業も同じ答えにたどり着いてしまう「同質化」という問題が生じる。これを回避するためには、新たな発想や別のアイデアを出すパートナーとしての役割をAIに与え、同質化しない「別解」をつくることが重要だ。
その視点から、博報堂DYグループでは「AI-POWERED CREATIVITY」という戦略を掲げている。これは、人間の創造性を拡張するAIソリューションによって、同質化しないマーケティングを生み出すという戦略である。企業は、Automation(自動化)、Augmentation(創造性拡張)、そしてAspiration(大志)という3つの”A”の視点を持つことで、同質化しない独自の戦略を生み出せる。
AIによる商品・サービス開発の加速が進むと、生活者も個々のニーズに最適な商品サービスを入手しやすくなり、結果として企業間の競争軸は効率性から創造性へとシフトしていく。HCAI Professionalsは、AI-POWERED CREATIVITYの戦略のもと、差別化された商品・サービスを生み出すことを支援する。
「生活者発想プラットフォーム」による創造性の発揮
この戦略の実現において大きな役割を果たすのが、博報堂DYグループ共通の技術基盤「生活者発想プラットフォーム」だ。生活者洞察を起点にAIとの対話を通じて発想転換を促すこのプラットフォームは、行動データ、定性調査、文化的コンテクスト、グループの暗黙知といった多様なデータソースを統合し、別解を生み出す発想支援のための4つの機能を提供している。
- 1.「生活者」視点の発想機能
20万人の生活者意識データなどをもとに設定した”エビデンスベースドな”「バーチャル生活者」と対話することにより、生活者からの新たな発見や発想転換を促す。
- 2.「市場」起点の発想機能
AIが収集した市場データに博報堂の知見を加え、業界のイシューや変化の兆しを発見するマーケット洞察機能を備える。
- 3.「メディア/生活者インターフェース」視点での発想機能
生活者の接点意識データとメディア在庫情報をもとに、カスタマージャーニーの素案を作成する。
- 4.「効果予測」機能
疑似市場でマーケティング効果を検証し改善点を抽出することができる。「バーチャル生活者」で注力ターゲットを生成し、対話を通じてさまざまな意見を拾い集めることも可能だ。

戦略の実行フェーズでは、「AI-POWERED Marketing Solutions」と呼ばれるマーケティングの各領域に特化したグループのさまざまなAIソリューションと、領域ごとの専門人材、そして横断的なコーディネーション機能を組み合わせた体制を用意している。これらに、グループの強みである生活者知見と顧客企業への深い理解をかけあわせて導き出された最適な提案を、Hakuhodo DY ONEなどの実行部隊が連携して実行し、PDCAを高速に回すためのガバナンスと共通インフラを提供する。
Hakuhodo DY ONEが提供する実践型支援
マーケティング領域ではAI導入が急速に進み、とくに分析や自動化の分野は成熟しつつある。一方で、前述した「同質化のジレンマ」に陥り、結果として差別化が難しくなるという問題も顕在化している。多くの企業がデータドリブンを掲げる中、そのデータをもとにした独自性を保ちながらAIを活用することが次の焦点だ。
Hakuhodo DY ONEの強みとソリューション
AI導入の実行部隊であるHakuhodo DY ONEでは、現場対応力を強みとし、生活者の洞察から生まれた別解を迅速に広告施策へと転換するエージェント型広告サービス「ONE-AIGENT」を提供している。本サービスは、当社の統合マーケティングプラットフォーム「CREATIVITY ENGINE BLOOM」で生成した多様なアイデアを、AIを組み込んだクリエイティブ制作ワークフローで実装し、メディア運用と連携して効果検証まで一貫して提供するものだ。
実際の取り組みとして、社内のAI活用による業務変革ノウハウを顧客企業の広告運用プロセスに適用し、マーケティングの生産性向上と自社の独自性を両立させたプロジェクトがある。この取り組みでは、単にAIエージェントや自動化ツールを利用するだけではなく、企業固有の文化や暗黙知を反映した独自のクリエイティブ表現をAIで作成した。マーケティング担当者はAIエージェントによる多くの提案から選んで、判断するスキームへと変化し、自分ひとりでは気付くことのできなかった表現や結果にたどり着くことができた。
マーケティング担当者の役割の変化に対するHakuhodo DY ONEの支援
マーケティング担当者の役割は、単なるデータやツールの運用者から、AIと共創して戦略的な価値を設計する立場へと変わりつつある。ルーチン業務の効率化を図るだけではなく、AIをパートナーとしながら、戦略的マーケティングの立案、新しい視点でのクリエイティブ表現の実装を可能にしていく必要がある。
Hakuhodo DY ONEはこの変化に合わせ、マーケティング・プロセスのエージェンティック化に加え、顧客企業のAIリテラシー向上のための研修、現場で使えるテンプレートやツール群、実行支援チームによる伴走も提供していく。組織内での役割の再定義や業務プロセスの再設計も支援し、マーケティング担当者の創造性を拡張して価値設計につなげる環境整備を推進していく方針だ。
人間の創造力を拡張させ、新たな価値を創出する
HCAIの考え方に基づくAIソリューションは、技術進化と社会的要請に応じて人間の創造性をさらに拡張する方向へ発展していく。従前、HCAI(人間中心のAI)という概念は、エンドユーザーに対するユーザビリティに主眼をおいた設計原則であることからスタートし、やがてAI技術の発展とその普及とともに、リスクコントロールとしてのガバナンスを示すものとなった。今後は、それらの原則を維持しながらも、「人間中心のAI」が対象とする「人間」の定義は、ユーザーから生活者へと広がり、社会全体への影響を考慮した実装が求められる。
マーケティング領域では、AIが洞察の生成やアイデアの提示を担い、担当者は価値の判断や企業思想の反映に注力するという人とAIとの共創が重要になるだろう。博報堂DYグループではこれからも、HCAI各組織間の連携を深め、企業がAIを通じて創造性を発揮できるよう支援を続けていく。
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森 正弥博報堂DYホールディングス執行役員Chief AI Officer、 Human-Centered AI Institute代表1998年、慶應義塾大学経済学部卒業。外資系コンサルティング会社、グローバルインターネット企業を経て、監査法人グループにてAIおよび先端技術を活用した企業支援、産業支援に従事。
東北大学 特任教授、内閣府AI戦略専門調査会委員、日本ディープラーニング協会 顧問。
著訳書に、『ウェブ大変化 パワーシフトの始まり』(近代セールス社)、『グローバルAI活用企業動向調査 第5版』(共訳、デロイト トーマツ社)、『信頼できるAIへのアプローチ』(監訳、共立出版)など多数。